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手紙:2022-12-16

香りの行方

嗅覚の可能性

季節ごとに咲く花々、例えば、紅白の梅が咲き乱れると、辺り一面が、梅の香に包まれます。特に春は、沈丁花、水仙、鈴蘭など、香りの良い花が次々と開花します。動きが遅い植物にとって、香りを空気に乗せて拡散し、自分の存在を遠くまでアピールする事、そしてミツバチや人間を惹きつける能力は、植物の最高に進化した能力と言われています。

花の香りは素晴らしいですが、最近、人の嗅覚は鋭敏になり、衣類や部屋の芳香剤、制汗剤、あらゆる消臭剤が次々と開発されています。「加齢臭」と言う言葉も生まれ、体臭に気をつける事がエチケットになってきました。この変化は、人が神経質になったからではなく、進化と共に五感覚が鋭敏になった事を表しています。

五感覚には、それぞれ進化の方向があります。単なる肉体的な感覚から、心理的、知的そして魂的にまで発達すると、素晴らしい能力に変化する可能性があります。私達は、肉体の匂いだけでなく、意識に従って、感情、考え方、それらが混じった意識など、各次元に色々な霊的匂いを発散しています。人は無意識にそれらの匂いを感じ取り、惹き付けられたり反発したり、異常を感じる事ができます。

現在の社会は、組織化、グループ化がテーマになっていますが、嗅覚は「同じ意識の仲間を嗅ぎ当てる能力」として、突出した力を発揮します。同じ香りを好んで集まる虫のように、同じ好みや考え方の人達は、同じ香りを好む仲間と言えるのです。今回は、人が無意識に使っている嗅覚が、何を表しているか、進化するとどのような霊的能力になるかを考えてみましょう。

根源に帰る力

皆さんは、道を歩いていて料理のいい匂いがすると、それにつられて、匂いのする店の前まで行った事があるでしょうか。つまり匂いを辿ると、「匂いの発生源、その源に行き着く事」ができます。人間は、この力を使い、次元を高める事で、魂の方向、そして位置を探し当てる事ができるのです。

鮭が生まれた川に帰っていったり、犬が人の行動を追跡できるのも、サメがたった一滴の血の匂いで獲物を捕獲するのも、鋭い嗅覚の働きです。しかし、私達が辿るべき意識の根源とは、とても高い次元なので、動物のようにどんなに鋭い嗅覚を持ったとしても、そこに到達できるものではありません。では、どんな訓練をすると、私達の嗅覚は、次元を上げていく事ができるのでしょうか。

動物が鋭い嗅覚を使うのは、生きのびる為です。動物にとっては、生存する本能こそが、嗅覚を研ぎ澄ませる目的なのです。では、私達にとって、生きのびる為には、嗅覚を研ぎ澄ませる動機とは、何でしょうか。人によっては、食べて寝る、楽しい事がそこそこできればいいと考える人もいるかもしれませんが、発達した現代人である私達は、人生にそれ以上のものを求めるでしょう。

それが「理想や夢」です。しかも、今の若い人達の傾向ですが、昔のように、お金や権力を得たり有名になるなどの物質的な夢より、精神が充実する方向性、良き事に貢献できる方向性を求める人が増えてきました。この精神的な変化こそが、五感覚を鋭敏にしている理由です。自分が何を求めているのか、明確ではないものの、その行方を探求する為、能力を磨いて知性を高め、働き方や社会は、大きく変化してきたのです。

嗅覚と理想

さて、人間にとって、生まれてくる時、魂にとって一番恐ろしいものとは、同じ方向を目指す仲間と出会わない事だと言います。その為、魂は霊界から、その縁を繋ぐ仕事をしています。その時、地上で役立つのが嗅覚です。先ほど説明したように、嗅覚には「仲間を探す」能力があるからです。

自分にとって、心地よい仲間や同じ目的を持つ人を探す時、「同じ匂いがする」と表現します。これは、心的あるいは知的嗅覚で、同じ雰囲気を持つ人、同じ方向に向かっている人を嗅ぎ当てているのです。もっと高度な魂の方向を探そうとすると、同じ道を辿る仲間が必要で、その影響で、社会ではグループ化が進み、人は家族以外の親しい仲間を必要とするようになってきました。反対を言えば、家族がいたとしても、仲間が見つからない時に、私達は淋しさや強い孤独を感じるようになったのです。

仲間を得る為には、目的を持ち、自分自身の能力を磨き、積極的に社会と関わる事が大事です。その過程で、様々な人達に出会いますが、目的の背後の動機によって、集まってくる仲間、自分が属する仲間が決まってきます。反対を言えば、自分の周囲にいる仲間を見る事で、私達は自分自身の意識の方向を知る事ができるのです。

人は匂いを嗅いだ時、昔の記憶を鮮明に思い出す事があり、しばしば記憶と匂いは直結しています。嗅覚は人間の優れた記憶力と想像力に結びつき、「イメージ」を引き出す力に発展しました。イメージ力を駆使し、失敗を恐れずに、「理想や夢を描く力」を磨く事が、やがて魂の方向を探し当てる高い嗅覚に結び付くでしょう。

魂に帰還する

では、魂の次元の香りとはどのようなものでしょうか。これは古代に「アムリタ」とか「不死不老の薬」など、幻の食物が放つ最高の香りで表現されています。つまりそれは物質的には表現できない香りと言えるでしょう。それを知る為には、魂の本質とは何か、その意味を理解する事が大事です。

魂の本質は、愛であり救済であり、高い理知性です。ですから、目的や理想の動機に、このような無償の愛があるべきでしょう。そして、真の愛に辿りつくまでは、長い道のりを歩まなければなりません。最初は、自分の理想や夢を描いて歩み、その時は楽しくもあり、喜びでもあるでしょう。しかし達成しても、いつかは必ず夢は破れ、落胆し、空しくなる経験をします。そして、自分が描いた夢が、人格の成長には必要だったけれど、本質的には間違っていた事や、自分勝手なもの、自己満足だった事を発見するものです。それは、何回もイメージを描き、そこに至っては一瞬喜び、そして落胆する。この繰り返しの果てに、落胆しない夢とは一体あるのか?と考え始める時がやってきます。本当に魂と言うものがあるのだろうか?愛とは何だろうかと…。

このような疑問が出てきた時、魂は道を探して奮闘し、本質的に苦しんでいる人を必ず見つけ出します。そして必ず、ヒントや新しい縁などを通じて、救いの手を差し伸べるでしょう。それが魂の役目です。ところが、物質界に生きている私達にとって、高い次元の香りは精妙で微かなものです。感情が乱れたり、何かの思いに捉われていたり、勝手な考えに固まっていると、その微かな香りの導きを逃してしまいます。あるいは、香りを捉えても、他の魅惑に満ちた香りや、慣れ親しんだ勝手な好みの香り好んでしまい、重要な香りを選ばない場合さえ出てくるでしょう。

魂のような高い次元の微妙な香りを捉えるには、空間つまり自分自身を清浄にし、意識を鎮めて受動しなければいけません。そして香りを捉えた時、その源の方向を正しく辿るには、注意深く冷静な知性が必要です。捉えた瞬間に、思い込みや断定と結び付けて、急に方向を誤ってしまう事が多いからです。

魂は私達の真の主人、帰るべき家です。どんなに長く、大変な道のりでも、ただひたすらそこに帰る為、その香りを求め続ける献身的な意志が試されるでしょう。道の途中で、様々な誘惑の香りが意識を惑わせたり、疲れて諦めそうになるかもしれません。それでも、微かな印象を思い出し、何度でも意識の姿勢を立て直し、忍耐強く歩み続ける事が大事です。

そのように苦闘し、迷い、それでも努力を続けているうちに、私達は周囲に同じような人々がいる事に気づくでしょう。そして、これが共に歩むべき魂の仲間だと理解します。人種や国籍、能力や職業、年齢や経験の違いがあっても、遠い先には、実は求めている一つの方向がある、それが人類と言うグループであると気付くのです。その精神に目覚めた時、いつしか自分自身が、魂の微かな香りを放つ人となり、また周囲に、その香りを求めて集まる人が増えるでしょう。実は、私達自身には、魂と応答する香りが埋め込まれていたのです。求め続ける事で、開花する花が、その香りを周囲に放つようになる…、それが全ての人の進化だと理解する時が来るでしょう。

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