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手紙:2025-10-17

距離感から学ぶ

アリから学ぶ渋滞の原理

日本はコロナ後、車の移動が多くなり、連休は各地で道路の渋滞が発生します。いかに渋滞を避けて移動するかは、事故を起こさない秘訣でもあり、専門家が色々な角度から研究をしています。その中に「アリから学ぶ渋滞の避け方」と言う興味深い原理がありました。車の多さだけではなく、割り込みや不用意なブレーキなどで、車の距離が縮まると、後列には渋滞が発生します。

ところが、一列に並んだアリの行列には渋滞が発生しません。フェロモンの作用による匂いで調整し、仲間と一定の距離が保てる為です。アリは常に一定の距離を維持する事で、列の渋滞を避け、効率よく移動するのです。この原理から、車の渋滞を避けるには、混む時間帯をずらすだけでなく、車の距離を一定に保つ事が秘訣だと言うのです。

アリの列の原理は、人間関係に広く応用できます。私達は家族や親しい人との関係で、密着し過ぎて色々な問題を起こします。人との付き合いで、感覚的、感情的な満足を得ようとすると、密着した関係を望み、相手に要求する事も多くなります。距離が近過ぎると、渋滞時のように、イライラや不満の感情が湧き上がり、事故に繋がり易くなるのです。一方、距離を取り過ぎると、無関心になって、何も生まれません。

また、自分自身の中でも、自分の感情や考えに密着し過ぎると、客観性が無くなり、感情に溺れたり、過度な要求が生まれ、発言や行動が異常なものになりかねません。人との関係でも自分の中でも、距離を適度に保つ事は、難しいものです。今回は、距離の観点から、精神の成長や人間関係の秘訣を学んで行こうと思います。

距離の計算

「あの人とは距離がある」「距離が縮まった」「しばらく距離を置く」など、「距離」は人間関係で、よく使われる言葉です。これらは実際の距離ではなく、心や考え方などの「意識」の例えです。「関係」を考える時、距離が上手に調整でき、バランス良く保てると、関係がスムーズになる傾向があります。

ところが、心は密着する事で、安心し満足する性質があるので、密接する関係を求めます。しかし、距離が近いと、殆どのケースでは、やがて問題が起きます。特に、恋愛や夫婦関係では、その状況がずっと続く事は少ないものです。また、相手と自分が感じて望んでいる距離感が、一致しない場合もあり、欲求不満の原因にもなります。

一方、原理として考えると、どんな存在でも、健全な状態を保つには、一定の距離が必要です。全ての存在は、基本的に自己保存本能で保たれていて、互いの存在の反発で成り立っているからです。つまり、全ての存在は「引力と斥力」が、丁度バランスを取った距離で存在するのが理想なのです。

アリの場合は、本能的に物質的距離を保っていますが、人間関係の距離は精神的なものなので、もっと高度な判断が必要で、バランスは大変難しいものです。距離が離れ過ぎると関係が生まれません。関係ある間柄でも、距離感が違うと、寂しさや、理解がないなどの心配や思い込みから、距離を縮めて接近したくなるものです。しかし心の密着は、一旦上手くいって満足しても、原理に合わない為、結局は様々な問題が起き、続ける事はできなくなるのです。

自立した精神の距離

人間関係でどんな人ともバランスの取れた距離を見つけ、維持するには、相当な意識の成長と自立が必要です。この力は、主に心の発達と知性による支配が関係するからです。心は、物質界で多種多様な存在に接触する役割があるので、広く豊かに発達する必要があります。心の成長期には、好奇心や想像力を育てる為、色々な人と接触し、同調して一定期間密着します。この間は、引力の拡大期で、まだ自己確立が不明確な為、誰かと密着する事で、自分の存在を確認します。

ところが、知性が発達し、自意識が明確になると、思春期の反抗期のように、周囲と自分を分離して独自の考えを確立しようとします。そうは言っても知性は未熟な為、どこかで誰かと寄り添い、安心感を得ようとする心の欲求が働きます。多くの人類がこの段階にいて、自己主張はするものの、誰かと心の密着も得たい為、関係は複雑になります。自分の都合で、引力と斥力の距離を変えて要求する為、我儘で、思った通りの距離感が得られないと、怒りや落胆、欲求不満を感じ、精神が不安定になるでしょう。

しかし、この不機嫌な時期に、人は斥力と引力のバランを学んでいるのです。不快な気分を何度も経験し、何とか周囲を思い通りにしようとあれこれ策を講じます。そのようにして、人間関係の経験を積み重ねると、心の密着や利己的に周囲を支配する事は、精神の安定には繋がらないとわかってくるでしょう。

支配すべきは自分の心であり、接近し過ぎる欲求を諦め、かつ関係を切らずに一定の距離を保つ事が、精神の安定を保障すると気付き、人はようやく大人になる決心がつくのです。

距離と自由

密着すると問題が起こり、離れすぎると関係が生まれない為、距離を調整する為には、互いを認め、自分の欲望や偏った考え方を捨てる事になります。これは、人が物質の引力に抵抗する魂の愛に目覚める道です。そして、それを喜んでできるようになる為には、結局、自分自身の内的な世界で、心や知性と、バランスの取れた距離を作る事が必要だとわかるでしょう。つまり、意識の距離とは、本質的には内的な世界の問題で、自分の中のバランスが取れると、周囲の人や現象とも、距離が取り易くなるのです。

このような訓練は、一体何の為にすべきなのでしょうか。それは魂との距離を縮める為です。人は、物質との距離を適切に保つ事で、意識が自由になります。自由になった意識は、どこに行くのでしょうか。それこそ、意識の源=魂の方向です。人間は、生まれる時、物質界に適応する為、一旦魂との線を切って出てきます。その為、多くの人は、魂と距離が遠くなってしまうのです。その方向をもう一度取り戻し、距離を縮める為、私達は物質の引力に打ち勝たなければなりません。物質界で距離を保つ訓練は、魂に帰る道の始まりなのです。

意識の自由とは、元々魂が持っている性質です。私達の魂意識は、地球の自然界や物質に奉仕する為、この世に転生しています。最初は、物質界に密着する事で世界を知り、その後、引力に抵抗する魂の力を学ぶ事で、程良い距離を発見します。人間は、物質の引力に引かれながらも抵抗する力を得る事で、初めて正しい判断ができ、効果的な奉仕ができるようになります。つまり、人間関係や現象界との距離を保つ事自身が、魂との距離を縮める帰還の道と言えるのです。距離の問題は、私達を愛の法則へと導く扉とも言えるでしょう。

太陽系の引力と距離

以前の時代では、知性が未熟だった為、心の密着力と闘うには、心を殺し、抹殺する他はなく、人類は非常に苦しい道を歩んできました。しかし、新しい時代に入り、人々の知性が目覚めた為、今までのような犠牲の払い方ではなく、別の方法を選ぶ事ができるようになりました。魂の力が、心や知性の能力を最大限活かし、生き生きとしたバランスを達成するので、奉仕は喜びに満ちたものに変わって行くのです。

人間は物質と結婚し、長きに渡り密着し過ぎて、自分が肉体であると錯覚してきました。これからは、魂と結婚する為、物質とは距離を置き、魂と接近する方向に意識を転換していくでしょう。それでも、人は物質を見捨てるのではなく、本来の使命に目覚め、自然界や同胞、世界の隅々まで、効果的に奉仕するようになるのが、新しい時代のあり方です。

太陽系が、一定の距離を保ちながら、互いに影響を与え合って進化しているように、私達も宇宙の愛の法則を学び、心の距離、知性の距離を試行錯誤しながら、進んでいきましょう。

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